アラスカ航空1282便緊急着陸事故(あらすかこうくう1282びんきんきゅうちゃくりくじこ、Alaska Airlines Flight 1282)は、2024年1月5日にアメリカ合衆国のオレゴン州上空で発生した航空事故である。

概要

ポートランド国際空港を離陸直後、機体後部の非常ドア設置予定部(当該機の座席配置の場合、この非常ドアは脱出時に使用されないため、開閉不能な構造として準備工事のみがなされていた)が突如吹き飛び、急減圧が発生した。機体はすぐに出発空港に引き返し、緊急着陸に成功した。乗客乗員177名は全員生存したが、複数の負傷者が発生した。

機体

当該機はボーイング737MAX 9で、ボーイング社によるシリアルナンバーは67501、航空当局による登録番号はN704ALであった。2023年10月15日に初飛行、同月31日に納入された。11月11日から就航し、事故発生時点での機齢はわずか約3ヶ月ほどで、過去のフライト数の総計は145であった。2023年11月27日に該当機はオクラホマシティーに移動し、MRO提携先AAR Corporation拠点で10日かけてWi-fi取り付け改修作業が実施された。復帰当日12月7日と2024年1月3日、4日の3度、自動与圧警告灯が点灯したことで、アラスカ航空は洋上飛行中の警告灯点灯事態を避けるため、ハワイ州発着路線を制限していたと報告されている。

B737 MAX 9の機体後部には、オプション装備の非常ドアが存在する。当該機の座席配置の場合、このドアは使用されないため、後から座席配置を変更した際にドアを新設するための準備工事のみがなされていた。

事故の経緯

太平洋標準時17:07にポートランドを離陸した。離陸6分後、高度16000フィート(4900m)に到達したところで急減圧が発生した。急減圧が発生したドア付近に乗客はおらず、吸い出された者は存在しなかったが、一部の乗客が機内を飛散する物品による怪我を負った。また目撃者証言によれば、26列に着座していた児童の衣服が風圧によって引きちぎられ、隣席に着座していた母親に支えられてかろうじて吸い出されることを逃れたとされる。酸素マスクが落下後、乗務員は高度10,000フィート (3,000 m) への緊急降下を実施。17:27には出発地ポートランドへの緊急着陸に成功した。

影響

飛行停止

アラスカ航空は事故当日、保有する全65機の737 MAX 9を一時飛行停止(この措置は事故翌日、安全が確認された18機に限り解除されたが、後述のFAA緊急指令により再び全機に飛行停止措置がとられた)。さらに1月6日、FAAは非常ドア追設準備工事がなされた171機の737 MAX 9について、一時的な飛行停止および緊急点検を求める緊急耐空性改善命令(EAD:Emergency Airworthiness Directive)を発令した。

他オペレーターへの影響

この事故にともない、ユナイテッド航空では保有する737 MAX 9の点検を行った結果、保有全79機のうち5機において当該ドア部の不具合(不完全なネジ締め込み、ボルトの緩みなど)が発見された。

737ほか型式への影響

2024年1月22日、FAAはMAXシリーズとは世代が違うNGシリーズのMAX9と同タイプドアプラグが設置されている737-900ERに関しても目視検査し、ドアが適切に固定されていることを確認する安全検査勧告(Safety Alert for Operators :SAFO)をだした。

同月24日、FAAは事故発生した737 MAX 9の検査整備指示書を承認し1)特定のボルト、ガイドトラック、金具の点検、2)機体中央の左右にあるドアプラグと関連部品数十点の詳細な目視点検、3)ファスナーの増し締め、4)損傷や異常状態の修正の4点を点検し、耐空性の確認出来た機体から運航再開出来るとしたが、FAAは承認と同じ日に長官が「このプロセスで明らかになった品質管理上の問題が解決されたと我々が納得するまで、ボーイングからの生産拡大要請や、737 MAXの生産ライン増設の承認には応じない」との声明を発表し監視強化し、1)737 MAXの生産拡大に上限を設け、説明責任と要求される品質管理手順の完全遵守を確保する、2)ボーイングが製造要件を遵守しているかを精査する調査の開始、3)ボーイングの全施設で立会いを強化し、新型機の監視を積極的に拡大する、4)リスクを特定するためにデータを綿密に監視する、5)品質管理と権限委譲に関する、安全に焦点を当てた潜在的な改革の分析を開始する、項目追加するとした。これら対応により墜落事故により型式証明取得が先送りされていたMAX7/10に関して、型式証明取得時期が見通せない状況になり、既にMAX7/10発注済み顧客の中には他のメーカーの機体やMAXシリーズでも運航可能なMAX8/9ヘの機種変更を検討する顧客も出てきている。

調査

事故後、国家運輸安全委員会(NTSB)および連邦航空局(FAA)による事故原因の調査が行われた。1月9日には、事故後行方不明になっていた非常ドアが発見され、NTSBによって回収された。なおこの調査は1月9日現在継続中である。

事故後、コックピットボイスレコーダー(CVR)はブレーカーが落とされず録音が停止されなかったため、2時間の音声記録が上書きされており、事故当時の音声は記録されていなかった。NTSBのジェニファー・ホメンディ委員長は過去にも同様の事例が発生していることを挙げ、CVRの記録時間を25時間に延長するよう主張した。

関連項目

  • サウスウエスト航空1380便エンジン爆発事故
  • アロハ航空243便事故
  • 日本航空123便墜落事故
  • ボーイング737型機の事件・事故一覧
  • ボーイング737 MAX
    • ボーイング737 MAXにおける飛行トラブル

脚注


アラスカエア1282便航空機事故リポート:飛行中にドアが外れ、民家の庭に落下|エスクァイア日本版

米ボーイング、主力機のドア落下事故で責任認める 原因究明に取り組むと BBCニュース

アラスカ航空「ボーイング737MAX9」を一時飛行停止 機体の一部吹き飛ぶ事故受け TBS NEWS DIG

米アラスカ州で水上飛行機が空中衝突、5人死亡1人不明 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

【解説】 米ボーイングにとって深刻な問題 主力機のドアが航行中に飛んだ事故 BBCニュース